北辺の海の民・モヨロ貝塚 (シリーズ「遺跡を学ぶ」)

私が小学生の頃、国土社という出版社から「日本発掘物語全集」という子供向けのシリーズが刊行されていて考古学大好き少女だった私は夢中で読みふけったものですが、そのシリーズの第一巻が他でもない、「モヨロの火祭り」というモヨロ貝塚を取り上げた一冊でした。佳作ぞろいの各巻の中でも、これは私の一番のお気に入りで、あまりに何度も読みすぎて、表紙が指跡で黒ずんでいるほどなのですが（要するに今も持っている！）子供心がそれほどまでに引き付けられたのはそこで語られているモヨロ貝塚の発見者、米村喜男衛さんの人生の物語が桁外れの魅力にあふれたものだったからに違いありません。考古学好きの少年が長じて床屋となった後も、その情熱は消えることなく、北方に原日本人のルーツを求めて北海道に渡り、ついにモヨロ貝塚の発見にいたる。そんな米村喜男衛さんの物語は幼い少女の胸に、自分もこんな風に生きたい自分もこんな大人になりたいという思いをかきたてるにふさわしいものでした。私にとってモヨロ貝塚というのはただの遺跡ではありません。その名を記憶の中から呼び起こすだけで、なつかしさと、夢見るような甘美さに心が満たされる特別なものなのです。そんな私がふとしたことでこの「北辺の民・モヨロ貝塚」とめぐりあいました。米村喜男衛さんの物語で始まるこの本は私に、子供用の本とは比べ物にならない、遺跡についての精密な知識を与えてくれたのはもちろん、米村喜男衛さんという宝石のような人物と、大人になった今の頭で再会する機会を与えてくれました。読了した今、米村さんに対する敬意は子供の頃よりむしろ膨れ上がっています。著者の米村衛さんは喜男衛さんのお孫さんだそうですね。そういえば「モヨロの火祭り」の中で確か、米村さんが、「私の息子も私のあとをついで考古学者になりました」とおっしゃっていました。お孫さんも考古学者ということは…三代続いてということになるのですね。じんときますね。わけもなく嬉しい。